コラム

2018/01/19

表も裏も中もある(東京・KK)

表も裏も中もある


▼奈良県にある興福寺中金堂再建記念特別展として東京国立博物館で開かれた運慶展は、入場者が60万人を超え大盛況のうちに終わった。貴重な仏像をこの目で見ようと閉幕を数日後に控えた週末の夜に足を運ぶと、1時間待ちの長蛇の列ができていた。運慶が作り上げた国宝や重要文化財に指定された数々の仏像がそろう展覧会は、史上最大の名にふさわしく見どころ満載だった


▼運慶展の特長は仏像を360度から鑑賞できること。普段は隠れている後ろ姿を間近で見る機会はめったになく、卓越した造形力に驚くとともに仏像が裏側まで丁寧に作り込まれていることに感心した


▼物事には常に表と裏がある。人間にも表の顔と裏の顔があり、本音と建前を使い分けることも珍しくない。表裏一体という言葉もあるが、表も裏もある方が人間らしいともいえる


▼裏があるのは決して悪いことではない。学問、スポーツ、ビジネスなどの分野で優れた業績を上げた裏には努力の積み重ねがあり、美談として語られることも多い。縁の下の力持ちとして裏方の役割を果たす人がいて初めて成り立つ世界があることも忘れてはならない


▼ところで仏像の内部には巻物などが納められている場合が多いが、中身は取り出してみなければ分からない。X線CT調査によって運慶作の仏像の中にも、まだ見ぬ納入品が隠れていることが判明している。ただし実際に何が入っていて、何が書かれているのかは謎のままだ。まるで仏像が「表も裏も見せるけど、中は見せないよ」と語っているかのように思える。人間も表と裏は見えたとしても心の中までは分からないのと同じことか。(東京・KK)


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