コラム

2020/10/13

亀の甲より年の功(埼玉・YM)

亀の甲より年の功


▼仕事柄、取材で歩くことが多く、革靴の消耗が激しい。長く履き続けるためには、日々の保管や月2回の靴磨きが欠かせない。ほかにも財布や鞄(かばん)も革製を使っているため、手入れをしなければ、すぐに傷んでしまう。面倒臭がりな性分だが、慣れてくると手入れや経年劣化を楽しく思えてくる


▼「中華の鉄人」陳建一の中華鍋を10年以上使っている。鉄鍋は使い込むほど劣化するどころか鍛えられて使いやすくなる。手入れに手間がかかるからこそ愛着を持てる


▼これからの季節、鍋と言えば土鍋だろう。漫画「美味しんぼ」の3巻で土鍋を扱っている。すっぽん屋で30年鍛えられた煤(すす)ぼけた土鍋を使えば、水と醤油だけで極上の丸雑炊が出来上がる。30年の歳月を経て、土鍋にすっぽんの味が染み込んだからだ。土鍋を育てる人間の力も求められるため、主人公・山岡士郎は「人と土鍋の真剣勝負」と表現した


▼高知県にある古民家カフェを訪れた。築120年を超え、古民家をカフェ用に改修している。門をくぐれば、温かく、歴史を感じる木造住宅の世界が迎えてくれる。和菓子も相まり、どこか懐かしい、ひとときを過ごした。人が使い込み、手入れをすることで、経年劣化が味わい深くなり、とても趣のある空間を醸成してくれる好例だ


▼あらゆるモノは長い歳月をかけ、歴史を積み重ねることで価値が増してくる。ところが継続的な維持管理より、解体・新築の方が簡単で儲かるのが実情だ。持続的な発展を遂げるには目先の利益ではなく中長期的な視野が必要だ。だからこそ人が心血を長年注いだモノには大きな価値が生まれるのではないだろうか。(埼玉・YM)


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