インタビュー

2011/09/27

マユール・バトラ会計事務所 山根氏、星野氏

◎マユール・バトラ会計事務所 東京連絡事務所 山根亜紀子氏、星野葉菜氏 インタビュー



 かつて「眠れぬ巨像」なとども呼ばれたインド経済。近年は「ネクストチャイナー」として熱い視

線が注がれている。鉄道・道路・港湾・電力・水供給などのインフラ整備は遅れているが、逆にこれ

がビジネスチャンスとなり、日本を含めた世界中の企業がインドへ進出し、目覚しい経済成長を続け

ている。しかし一方で様々な開発課題に直面しているのも事実だ。そこでコンサルティングおよびア

ドバイザリーサービスを提供するマユール・バトラ会計事務所(本社・ニューデリー)の東京連絡事

務所(東京港区赤坂)で日系企業の進出を支援、サポートするマネージャーの山根亜紀子さんと星野

葉菜さんのお二人に、なぜ、企業にとってインドは魅力的なのか――、今後の事業性と世界中から集

まる投資の実態などにについてインタビューをした。

   ◇

 ―現在、インドではデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)の実現に向けて、第2フェー

ズとして、インド貨物専用鉄道建設計画(DFC)の一部区間(レワリ~バドーダラ間約950km、

円借款対象事業)の入札が終わりました。鉄道建設事業が今後、本格化すれば日本から投資が多くな

るかもしれません。

 山根 日本からの投資は大分増えてきていますが、本格化するのはこれからだと思います。西回廊

といわれるデリー・ムンバイ間の貨物専用鉄道建設全体計画の一部入札が終わり、受注企業による本

格工事が今から始まろうとしています。今現在もですが、インドのインフラ、特に物流網は未整備な

ところが多く、道路もガタガタで運ぶ途中、商品が壊れてしまい、精密機械はとくにダメージが大き

いようです。また、冷凍・冷蔵用のコンテナがあまり普及していないため、炎天下で運ぶ野菜・果物

の腐敗率も高くなっています。これらをはじめとするインフラ問題を何とか改善しようと、円借款事

業で高速貨物専用の鉄道建設がスタートしたのです。

 星野 運んでいる間に機器類がダメージを受けてしまうので、荷主は保険をかけますが、保険請求

は非常に煩雑で大変困っていました。とにかくインドは鉄道に限らず道路、港湾などのインフラ整備

が遅れています。水道、ガス、電気のライフラインも遅れており、現在、国内のインフラ整備率は日

本との総体比較で言えば、まだ半分もないでしょう。とにかくインフラの整備率を上げるのが最優先

課題です。

 山根 今後、レワリ~バドーダラ間を区間分けして鉄道の敷設工事が行われますが、それが終われ

ば信号が付けられ、貨物専用列車が通れるようになります。このプロジェクトには国際協力銀行(J

BIC)によるファンド供与(円借款)が行われることが決定しています。このDFC向けの円借款

を利用するには条件が付けらており、その条件とは、日本からの調達額は30%以上でなければなりま

せん。これにより、日系企業の投資が本格化するだろうと期待しています。


 ―日系企業はインドに進出しやすい環境にあるということでしょうか。

 山根 そうですね。その環境は整いつつあると思います。しかし、大型プロジェクトについてはど

うしても大手企業に限られてしまいます。日系ゼネコンの進出も増えてきていますが、現地法人を開

設しているのは三井住友建設、清水建設、竹中工務店など数社しかありません。日系ゼネコンは外国

勢と比較した場合、どうしても価格競争において負けてしまうことが多く、現時点では、日系企業の

工場建設などのプロジェクトがほとんどです。欧米や中国、韓国系ゼネコンに比べてインドの一般市

場の建設工事事業を受注するのが難しいようです。また、住宅・土地開発・建物建設を行う場合は、

まだ規制の網がかかっていますので、思うように受注できないため、進出をためらっているのかもし

れません。

 ちなみに住宅開発の場合は区画10ha、建物は占有面積5万平方mの最低規模条件があります。つま

り、大規模都市開発であれば外資の参入は認められていますが、土地の販売や内装工事を手がけた建

物を転売するなどの小規模開発は認められていません。現状として、これら小規模開発は現地企業が

請け負うので、日系ゼネコンなど外資はまだ参入できない状態にあります。

 星野 インドにいきなり独資で進出するというのは容易なことではありません。しかもインドに拠

点を持つには非常に体力が必要です。例えば、インドで工場を構えて人を集めて操業するというのは

並大抵なことではありません。大手企業でさえそういう状況なので、中小企業が独資で進出するのは

非常に難しい状況ではあります。現在、インド日本商工会(デリー)に加盟している日系企業は30

0社ありません。欧米企業に比べて少ないのが現状です。少ない理由の1つには、インド中央政府が

定める法律に加えて、州ごとに異なる法律があり、進出地域の州法によって違いがあるので、二の足

を踏む日系企業が多いのかもしれません。とは言え、一番の障壁になっているのはやはり電力、道路、

上下水道などのインフラの整備率が低いことが挙げられます。整備率を上げるには日本からの技術を

含む投資が不可欠です。

 山根 デリー首都圏では1日数回、特にエアコン消費の増える夏場には停電が起こることが今でも

あります。また国内には無電化地域もまだ多く残っています。このため原子力発電所の拡張を余儀な

くされる状況にもありますが、今のところは火力発電所を増設して国内の電力を賄う計画のようです。

しかし、火力発電所は83%石炭火力なので増設が難しいといわれています。このため天然ガス(LN

G)発電所の増設や水力発電所の新規建設、さらに太陽光、風力発電といった自然再生可能エネル

ギーも積極的に導入する計画のようです。これら発電事業には、日本の企業も非常に高い関心を寄せ

ています。


 ―進出した企業がインド国内で土地を取得した場合、土地は買えるのですか。

 星野 法人であれば買えますが、工場用地については99年リースがほとんどです。近年、デリー・

ムンバイ周辺は土地の値段が高騰しています。場所にもよりますが、インフラがきちんと整備されて

いる工業団地は、当然値段が高いです。安いところは水も電気も来ていないサラ地なので、ゼロから

の操業となり、その分、コストも時間もかかります。だから一つの案として、工場を所有している現

地企業との合弁で進出した方が初期投資費用も抑えられますし、既存の販売ルートも持っているはず

なのでいいかもしれません。ただし、良いパートナーを見つけることが大切ですね。


 ―インドは官と民がパートナーを組んで事業を行うPPP(ハブリックプライベートパートナーシ

ップ)、いわゆる民間資金の投入というのがスタンスなのでしょうか。

 山根 これまではインド政府が国内の建設会社に委託して建物・道路などを造らせてきました。た

だ、その中間のエージェントがお金を中抜きするなど、結局は低い価格で工事を引き受ける質の高く

ないサブコンが利用されてきました。また、造った後は放置された状態で、メンテナンスも行われま

せん。このため政府はメンテナンス業者に別枠で予算を計上しなければならないなど、非効率的なも

のでした。このことから政府は、建設後も民間にメンテナンスを含む運営をさせるというPPPの手

法を採り入れたのです。その結果、品質は格段によくなり、効率も上がりました。


 ―インドへの参入は欧米など外国企業との激しい競争もあるようですね。

 星野 進出した後もいろいろなコストがかかりますので、いかに現地の労働力を使って、現地のも

のを調達するか、ということがカギになります。日本の技術力は高く、良い製品であることは分かり

ますが、いかんせん現状のままでは値段が高過ぎるようです。インド市場で外国勢に勝つには、技術

力や品質も大切ですが、価格で勝負することも当然、要求されます。

 山根 例えば、80点で合格のところを日本企業は100点を目指します。インド人の多くは、80点

で合格なのであれば、80点でも良いので、価格の安いものをという考え方を持っています。インド人

は日本の技術力の高さについてはもちろん知っています。しかし、多少品質の低い製品でも十分に使

えるのであれば、その製品を利用しようとするのがインド人です。

 星野 ただ、今後、市場が成熟すれば品質に対する見方も変わると思います。日系企業には品質を

大切に、その強みを生かしながらインドで頑張ってもらいたいですね。


 ―日系企業同士が組んでインドに進出するよりも、現地企業と組んだ方が有利なのですね。

 山根 現実を考えたら有利だと思います。例えば、日本企業同士のコンソーシアムよりも、現地企

業を交えたコンソーシアムの方がいろいろなプロジェクトを受注しやすいと思いますし、合弁会社を

つくるにしても、上手くインドパートナーが見つかり、その合弁相手が工場を既に所有していれば、

新たに工場を建てるという初期投資費用も抑えられます。インドでは経済の自由化により、外国企業

が現地企業と連携することで、多くのビジネス機会が創出されています。当社はこの環境の中で生じ

る様々な課題をスピーディーに扱い、リスク管理から法的な書類の手続き、会計、監査のサポートを

行います。現地企業と合弁したいときはパートナーも探せますし、現地で工場を構えたいという要望

があれば土地探しも行います。インドで土地を取得するには、書類のチェックや作成など非常に手間

がかかり大変ですが、弊社には顧問弁護士がいますので、弁護士を交えてそれら書類のサポートも行

います。戦略的なソリューションを提供することで、多くの企業がインド進出に成功しています。



紙媒体での情報収集をご希望の方は
建設新聞を御覧ください。

建設新聞はこちら