コラム

2002/10/31

それぞれの生い立ち(下)(本・MM)

2002.10.02 【それぞれの生い立ち(下)】

▼産経新聞に寄せられた投稿である。石川県七尾市の美術館に展示されていた詩に、女子高校生たちが感動して涙を流したというもの。「美術館なんて趣味に合わないし、書道なんてつまらない」という女子高校生の一団の言葉に、美術館でボランティア監視員をしていた投稿者のTさんは「あそこにお母さんのことを書いた詩があるの。お願いだからあの作品だけは読んでいって」

▼その詩は、書道家であり地元、願正寺の住職Mさんが、2年ほど前に『ごめんなさいね おかあさん』の詩に感動して筆をとり、出品したものだった。生まれたときから母に抱かれ背負われてきた重度の脳性マヒの少年が、世間の目を払いのけて育ててくださった、強いお母さんへの感謝の気持ちを綴った詩であった

▼前編「ごめんなさいねおかあさん/ぼくが生まれてごめんなさい/ぼくを背負うかあさんの/細いうなじにぼくはいう/ぼくさえ生まれなかったら/かあさんのしらがもなかったろうね/大きくなったこのぼくを/背負って歩く悲しさも/「かたわな子だね」とふりかえる/つめたい視線に泣くことも/ぼくさえ生まれなかったら」

▼鑑賞した女子高校生全員が泣き出した。作者は、担任の先生と二人三脚で、「表現したいことが一致すれば目をギュッとつぶり、違ったら舌を出してノーのサインを送る手法」で2か月かかって仕上げた後、15歳の誕生日を迎えてなくなった。先生とお会いできたことで、『生の証』としての作品が誕生した

▼土屋康文さんのこの詩集は『お母さん、僕が生まれてごめんなさい』と題し扶桑社から復刊、発売されている。「優しさこそが大切で悲しさこそが美しい そんな生き方を教えてくれたおかあさん」(本・MM)

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