コラム

2002/10/30

それぞれの生い立ち(上)(本・MM)

2002.10.01 【それぞれの生い立ち(上)】

▼泣かないでください。ある『書評』欄に目を通していたら、Aさんの生い立ちに出くわした。父は沖縄駐留の米兵、母は地元の女性。生後まもなく助産婦のミスで劇薬を点眼され失明する。父は1歳のときに帰米、以来行方不明。母は幼いAさんを祖母に預け再婚。両親に代わって祖母がAさんを養育。しかも祖母を母として、別れた、たまに顔を出す母を、歳の離れた姉だと教えられ育つ

▼小学時代「なぜ、自分だけがこんなに不幸なのか」と生い立ちを呪った。中学2年で祖母が他界すると、その思いは一層強まる。「いつか米国に渡って父を捜しだし、殺してやる。自分を捨てた母も、光りを奪った助産婦もみんな」。日増しにその思いが募る一方で自殺未遂も重ねる

▼しかし、歌だけは好きだった。高校1年の夏。「賛美歌が歌いたい」と、ある教会の門をたたく。自分の生い立ちを話すと牧師は黙って涙した。「僕のために涙を流してくれる人が、この世にいるなんて」。その驚きと牧師一家の優しさと愛情に、Aさんの心は徐々に開いていく。ある時牧師の奥さんから「自分の人生そっくりの生き様をしたBさん」の朗読テープを聞かされ、Aさんの心はふるえた

▼高校卒業後、歌のオーディションのとき「君の声は日本人離れしたラテン的な明るい声だ。素晴らしい声を授けてくれたお父さんに感謝しなければなりません。この声で、1人でも多くの人を元気づける歌をうたいなさい」と勇気づけられたという

▼その人の名はテノール歌手、新垣勉さん50歳。もし父に会えたら「もう僕は許しているよ」。月の半分は全国各地のステージに立っており、CDもこのほど発売となった。(本・MM)

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