コラム

2003/08/31

「つつが無きかや・下」(本・MM)

2003.08.31 【つつが無きかや・下】

▼蝮の血清を打った1週間後、医師からの安全宣言をうけ治癒を打ち切った。根っからの酒好きとあって、祝い酒をたしなんだ。翌日に全身の筋肉、関節が痛みだし、その晩は寝返りも打てない激痛に襲われ、一睡もできない羽目に陥った

▼「蝮の後遺症か」「酒のたたりか」と心配しつつ、こんどは都内の診療所を訪ねて驚かされた。「ツツガ虫病の症状があるので採血します」となった。敵は蝮だけでは無かった。なんたることだ、ツツガ虫病とは。決して「つつが無く」ではなかった

▼「つつがない」とは、お元気ですか、ご無事ですかが本来の意味である。607年に聖徳太子が小野妹子を派遣して隋の煬帝に宛てた書状の中に「日出ずる処(国)の天子、書を日没する処(国)の天子にいたす、恙(つつが)無きかや」と記されている。あの「つつがなきかや」である。入試問題に出題される著名な一節だ。爾来、日本では人に健康を訊ねるとき「つつがなきかや」と挨拶するようになった

▼自宅で家庭医学辞典を閲した。「ダニの総称であるツツガ虫の幼虫に刺され感染する。1週間から10日後以降に、発熱して全身がまばらに発疹し、腋の下、腰、リンパ節が腫れ痛みだす。目の充血、頭痛も伴う」とあった。ものの見事に的中。また「再発率の高い病気で、予防ワクチンはなく、手遅れでなければ死亡せず」とまで、ご丁寧に脚注されていた。ことしは冷夏といえど、本人にとっては氷点下になっていた

▼そこに、娘のピアノの音色が飛び込んだ。〈うさぎ追いしかの山ではじまる〉大正時代の唱歌「ふるさと」だった。2番目の節に「いかにいます父母 つつがなしや友がきて」とあった。「旧友は元気だろうか」という歌らしいが、私は地獄だ。(本・MM)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら