コラム

2003/08/23

景観を阻害するもの(本・SY)

2003.08.23 【景観を阻害するもの】

▼国土交通省が「美しい国づくり政策大綱」をまとめた。その前文には「都市には電線がはりめぐらされ、緑が少なく、家々はブロック塀で囲まれ、ビルの高さは不揃いであり、看板、標識が雑然と立ち並び、美しさとはほど遠い風景となっている」とある

▼美しい国づくりを実現するため、大綱は景観アセスメントシステムの確立、景観に関する基本法の制定、地域景観の点検促進など15の施策を掲げた。「短期間で重点的・集中的に取り組むべき事業については、一定年限内に達成すべき目標を具体的な数値目標などで示す」ことにしている

▼かつてノーベル文学賞を受賞した川端康成は「美しい日本の私」という記念講演をスウェーデンで行った。もう30年以上も前のことになるが、ちょうど高校の修学旅行で京都をバスで巡っていたときに「川端康成ノーベル賞受賞」のニュースを耳にした。金閣寺、銀閣寺、清水寺、訪れた京都の寺はすべて「美しい日本」だった

▼30年余りたった今、京都の寺々は当時と変わりなく「美しい日本」の象徴のひとつとして存在している。同省の大綱は京都、奈良などの有数の観光地を対象にしているわけではなく、日本全国でよく見かける都市の乱雑さを対象にしている

▼大綱の主旨には賛成だが、戦後の荒廃から奇跡的な経済成長を遂げた原動力のひとつになった多くの社会基盤を安易に捨て去るべきではないと思う。大綱で集中攻撃を受けているのは前述した「電線」と「電柱」である。この2つの景観阻害の象徴と言われる構造物も宮沢賢治の童話や宮崎駿のアニメの世界ではとても幻想的な存在に変身する。美の基準は難しい。(本・SY)

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