コラム

2003/10/31

恋着しない身のおさまり(本・MM)

2003.10.31 【恋着しない身のおさまり】

▼「春秋に私はよく、木々の枝を眺め入ることがある。(略)葉というものはほんとうに、何処へどう落ちても、見苦しい様になっているのを見たことがない。しかも元の枝をぶざまにしないで散っていっている。葉が一枚また一枚と落ちたために、枝の眺めが見苦しくなるということは絶対ない」

▼明治の文豪・幸田露伴の娘、幸田文さんの随筆集「月の塵」(講談社文庫)に『花おさまり』が収録されている。散って見苦しくなく、しかも元の枝をぶざまにしない。何かの決意を迎えるときに、自分自身が見苦しくなく、周囲にも迷惑をかけることなく、静かに身を退かなければいけない「身のおさまり」を読んだものであろう

▼道路公団民営化問題で国交相の辞表提出を拒否した藤井治芳総裁は「熟慮した結果、辞表の提出を断腸の思いで見合わせた」と。「今は勘弁」と言い逃れ、「私こそ改革論者」とうそぶき、「体調不良」と云っては民営化委員会を欠席・退席を繰り返し、顧みては他を言ってはばからなかった

▼一方、平成の鬼平とうたわれ、元日本弁護士連合会会長で、整理回収機構前社長の中坊公平弁護士は「部下の行き過ぎた回収行為は私の責任。断腸の思いで46年にわたった弁護士資格を返上する」として引退した。森永ヒ素ミルク中毒事件、豊田商事事件、香川豊島産廃不法投棄問題など数々の難題を解決してきた

▼道路官僚は地位に恋着、市民派弁護士は潔く引退した。道路公団や弁護士会という大樹を、どちらが傷つけずに出処進退の決意を行なったであろうか。下手にお土砂をかけると逆効果になろうことは、誰の目から見ても明らかなはずだが。(本・MM)

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