コラム

2003/10/01

「こちら」と「あちら」(本・MM)

2003.10.01 【「こちら」と「あちら」】

▼全国あちらこちらを訊ねると、時に声を呑む地名に出くわすことがある。静岡県中川根町にはその名の通り「地名」という地名がある。大井川沿いの小さな谷に開けた土地で、地名駅、地名小学校、地名郵便局も現存する。因みに「じな」と読む

▼鳥取県には地図町ならぬ「智頭町」(ちずちょう)も見える。新潟と山形との県境に「日本国」という山もあり、奈良県天理市には天皇神社が厳存する。地名には人間の歴史や風俗、文化の香りが漂う。愛知県の名鉄線豊明市内に「前後」の駅名もあれば、岡山県JR福塩線岡山市内に「上下」という駅名までもある

▼また河川は一般に、上流から下流を見て、左側を左岸、右側を右岸と呼ぶ。山形県最上川左岸地域に左沢と書いて「あてらざわ」、また右岸地域に右沢と記して「こちらざわ」という名が見当たる。「あてら」は、この地の方言で「あちら」を意味する。つまり右側がこちら、左側があちらである

▼熊本と大分の県境にある杖立温泉は「こちら」の大分県の部屋に泊まって、「あちら」の熊本側の大浴場に浸かることができる唯一のいで湯。いくら遊び心が楽しめるからといっても、両県に浴場と客室を持っているから、その広さに応じて税金を払うという。消防署、保健所の手続きも2県分行なっている

▼またがって不便なら、隣り合わせの役所もある。沖縄県の西端「西表島」がある竹富町役場は石垣市に置かれている。生活が船便のため、必ず石垣市を経由することから、石垣市に置くなら便利で公平というのがその理由らしい。取材は、いつも意外な発見や楽しみをもたらしてくれる。(本・MM)

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