コラム

2003/11/13

忘られた「読み書き算盤」(本・MM)

2003.11.13 【忘られた「読み書き算盤」】

▼江戸の昔から日本では「読み書きソロバン」が初歩的な教育方針だった。文章が読めて書けて、計算さえできれば実生活に支障を来さなかった。尋常小学校も出てない明治生まれの祖母は一丁字を識らない人だったが、逆にそのことが金勘定と世故に長けさせた

▼人間の言語処理能力は理性的で論理的にものごとを考える左脳に集中しているといわれる。コンピュータの作り出す言葉やロボットの機械的な発声は左脳機能を応用したものらしい。一方、右脳は音楽や絵画、情緒やイメージ分野が得意と聞く。その証拠に左脳の脳卒中患者は言語機能が失われても、記憶している歌のメロディを口ずさむことが可能だという

▼暗算桁数の日本記録保持者である女子高校生の計算方法を、ある番組で拝見したことがある。目をつぶりながら、ソロバンを頭の中にイメージし、イメージソロバンを使って計算していた。ソロバンだけなら左脳、イメージだけなら右脳が支配するが、彼女は左脳と右脳を駆使して記録を樹立した

▼理性や理想、思考のほかに、人間を人間たらしめている1つに情緒があると聞く。作家や作詞家の作品には、官僚通達などの無味乾燥な言葉は一つとして使われていない。情緒脳である右脳が日本語の味わい深さを、左脳に吹き込んで作品を仕立てあげるからである。日本を代表する数学者の岡潔は「自然科学者にとって一番大切なものは美しいものに感動する力だ」と情緒の大切さを説いた

▼江戸や明治人は「読み書きソロバン」というものが左右脳の連携の大切さ、人間形成の基本法則や教育原理であることをいみじくも知っていたのである。今更ながら先人の偉大さを思い知らされる。(本・MM)

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