コラム

2003/12/27

芸は身を助ける(長・YK)

2003.12.27 【芸は身を助ける】

▼『芸は身を助けるんだ、字は丁寧に書きなさい』冬が本格的になると亡き父の言葉を思い出す。筆者の父は大正14年1月生まれ。学徒出陣で明治神宮外苑陸上競技場で行われた壮行会にも参加した。当時、東京府立実工(今の都立墨田工業高校)に通っていた父は、陸軍で本格的な戦闘訓練を受け、南方もしくは満州に配属されるはずだった

▼訓練も2ヶ月ほど過ぎた寒い冬のある日、父は『君は字が上手いから、書類作りの任務についてもらう』と言われたらしい。学友が次々と戦場に送り出されていく中、自分だけが取り残されたという思いと、戦死したら5人の弟や妹の行く末はどうなるのか。死ぬわけにはいかないという思いが交錯したという

▼筆者が小学2年生のお正月に『字が上手だったから、今こうして生きていられる。字が下手だったら戦場で死んでいただろう』その話を初めて聞き、筆者も書道教室に通うことを決めた。字が汚い末娘に亡父の話をしたら、来年から習字に通うと言い始めたので『してやったり』、妻と苦笑している

▼亡父の場合『芸は身を助ける』どころか『芸は命を救う』だったが、今の建設業界はどうなのだろう。もちろん技術を持っていなければ、建設業としての存在意義そのものが無くなるのだが、当世、技術を持っていても倒産している企業が多々ある

▼他には無い技術を持っていても、その技術を発揮する場も無い、ただ「安ければよい」と言う判断はいかがなものなのか。業界の体質ばかりが問われているようだが、合わせて発注者の姿勢も問わなければならないように思うのだが。どうぞ良いお年をお迎え下さい。(長・YK)

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