コラム

2004/01/10

生き残りのキーワード(前・HI)

2004.01.10 【生き残りのキーワード】

▼がんを再発した患者21人の手記をまとめた「再発後を生きる」(三省堂刊)を読んだ。がんの再発・転移と、絶望の淵に落とされてしまいそうになる厳しい現実を突きつけられた。しかし、ここへ登場する患者は「大切なものが浮き彫りになった」「あきらめずに一生懸命生きる喜びを知った」と、事実を冷静に受け止めるとともに、前向きな姿勢なのだ

▼今や日本で、がんによる死者は年間約30万人と、死亡原因のトップで、死因全体の3分の1を占める。また、2015年には年間89万人ががんになるという推計もある。身近な現実で、他人ごとと考える人はもはやいないだろう

▼がんの再発に「完治はない」と言われることがある。苦痛の伴う抗がん剤治療と、常に気になる腫瘍マーカー値とのつきあいは、これからもずっと続くことになる。しかし、ここに登場する21人に死の色はない。「医者が見放した患者でも、今、元気になっている人を何人か知っている」「このような人は、医学的に説明がつかないうえ、不思議なことに病院の外で元気になっている」と、医師に聞いた話しが紹介されている

▼がんには未だ解明されていないことも多い。そのため、腫瘍の性質、成長具合は、人によって様々な経過を辿る。再発患者が希望を抱く背景の一端はここにある

▼来年度から、第3次対がん10か年総合計画がスタートする。がんの本態が解明されるその日まで、がんと共生できれば、患者にとって理想型の一つなのかもしれない。そして共生は、今の不景気な時代と価値が多様化する社会の中で、生き残るためのキーワードにもなるのではないだろうか。(前・HI)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら