コラム

2004/02/14

偏見のコレクション(本・MM)

2004.02.14 【偏見のコレクション】

▼初閣議後の年頭会見で石原伸晃国交相は「42年ぶりに昨年の交通事故死が7000人台に下がり、胸をなでおろしていた」ことが閣僚の間で噂になったと明かした。かって交通事故死は久しく交通戦争と呼ばれ1万人の大台で推移していた

▼一方、身近な死といえば、リストラにより職を失った中高年の自殺がある。統計によると、98年度以降5年間で自殺者は毎年3万人を数え、このうち2万人が50歳以上である。いずれも交通事故死を大きく上回っている。にも関わらず、何故か交通事故死ほどには話題にのぼらない

▼『数字のどこを見てるんだ』(宝島社)においても、「中高年の失業問題から目をそらし、珍しいものに気を取られ過ぎ」と嘆いている。昔から「犬が人間を噛んでもニュースにならないが、人間が犬を噛めばニュースになる」というのが報道の鉄則とされてきた。しかし、本質を見抜くことはジャーナリズムの基本。特異な事象を追うのは、本質を見ようとしないだけであろうか

▼解剖学者の養老孟司・東大名誉教授は『馬鹿の壁』(新潮新書)で「結局われわれは自分の脳に入ることしか理解できない。自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。この遮断が誤解の壁である」と述べ、常識が実は偏見を生じさせているとしている

▼アルバート・アインシュタインの言葉に、こうある。「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう」。10代、20代の自殺サイトは大きく取り上げられるのに、その1000倍もの数の死が、茶の間にのぼらない国は、空しさをとおり越して切ない。(本・MM)

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