コラム

2004/02/25

惻隠の情と良心(本・MM)

2004.02.25 【惻隠の情と良心】

▼孟子は弟子の公孫丑(こうそんちゅう)に「人間は誰でも同情心や惻隠の情(哀れみの心)があるものだ。その心のないものは人間ではない」と諭した。惻隠とは、幼子が今にも井戸に落ちそうなのを見かければ、誰しもが思わず助けようとする。これは「可愛そうだ」という一念からとっさに行なうことだ

▼少年犯罪は後を絶たないが、児童虐待も決して少なくない。先月大阪府で起きた中3男子生徒の両親による虐待事件は、1年半も食事を与えられずに放置され続けていたという。今も昏睡状態のままらしい。動物はわが子を、虐待や飢え死にさせるであろうか

▼平成12年秋に施行された児童虐待防止法は、学校の教職員らに虐待の発見や通告の義務を課し、児童相談所に家庭への立入調査権を認めた。しかし、調査拒否への対応規定がないために機能しなかった。その子にとって救いだったのは、保護責任者遺棄致傷罪より殺人未遂容疑で両親が逮捕されたことであろう

▼犯罪をおこす今時の少年と同様に、この両親もまた、ご両親から頂いた惻隠の情も、命の大切さも、良心さえも置き忘れてしまった。作家サマーセット・モームは「人間の良心は法則の番人であり、その法則を破らぬように見張る心の中の警官である」と述べている(月と六ペンス)

▼こうした事故が起きるたびに、被害者より加害者の人権が優先される歪んだ日本の社会では、永久にこの類の事件は惹起される。孟子は、惻隠の情のほかに「人間にとって大事なのは、悪を恥じる(羞悪)、善悪の判断ができる是非の心も大切」と説いた。中でも最も重点を置いたのは惻隠の情であった。(本・MM)

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