コラム

2004/06/05

魅了される『新明解さん』(本・MM)

2004.06.05 【魅了される『新明解さん』】

▼善し悪しはともかく、語釈から人格が感じられる辞書というものがある。昨年、この欄で「新明解さん」のコラムを提稿した。「新解さん」とは、最も人気の高い三省堂の「新明解国語辞典」のあだ名のこと

▼芥川賞作家の赤瀬川原平さん著作の『新明解さんの謎』がひとしきりベストセラーになったが、今度は、文藝春秋の編集者である夏石鈴子さんが『新解さんの読み方』(角川文庫)を上梓した。赤瀬川さんの影響をうけて「新明解さん」のとりこになったらしい。赤瀬川さんも「新解さん」の専門家としてその後任を認めているという

▼例えば[主婦]。家族が気持ちよく、生活環境を整え、食事などの世話を中心になってする婦人(主として妻に、この役が求められる)とある。主婦が家族の、あるいは幸せの主役であることが感じられる。また[へそくり]の項では、主婦などが家計をやりくりしたりして、有事に備え貯めたお金、と解説。有事が妙に響く。夏石さんは「辞書の中で言葉が動いている」とも表現

▼もう少し探索すると、[政界]は「(不合理と金権とが物を言う)政治家の社会」と言い当てる。[厳粛]は「事態を厳粛に受け止める」と用例を提示し、「自己に不利な状況に直面した政治家や政府高官が用いる決まり文句」と断言。一方5版で退場した「退耕」「丹花」「華氏」などの言葉もある

▼概ね無味乾燥な説明に終始している他の辞書に比べると、その時代の世相に対し明確な主張を持っている。ときには用法、用例が極端と見受けられる場合もないわけではないが、きちっとした意見を持ち、楽しさが滲む不思議な辞書である。(本・MM)

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