コラム

2004/08/10

財産守った宝暦の大治水(水・YH)

2004.08.10 【財産守った宝暦の大治水】

▼日本列島に上陸する台風は年平均2・6個と言われる。今年は既に4個。中には北西向きの珍しいコースを辿ったケースも。太平洋の高気圧が北寄りになっている等の条件が重なった結果と解説

▼杉本苑子著『弧愁の岸』は1963年第48回直木賞受賞作品。濃尾平野を並行して流れる木曽川、長良川、揖斐川は、歴史的に洪水が繰り返された。時の徳川9代将軍・家重は薩摩藩に、後に日本史3大巨大プロジェクトといわれる治水工事(宝暦の大治水)を命じる。その難工事と時代背景を紹介した小説である

▼宝暦4年(1954年)着工。薩摩藩の勢力を弱める政略的な背景もあったとされるが、木曽川、揖斐川の分流堤工事など4箇所の工事は想像を絶するものとなった。総工費は40万両を超え、実に当時の薩摩藩財政2年分に相当する。現在の費用に換算すると概ね300億円ともいわれる。宝暦5年3月28日竣工

▼時代背景もあって割腹自殺者50名余、病死者202名など死者も多かった。現場代理人たる総奉行・平田靱負(ゆきえ)も完成後に大きな犠牲の責任をとって割腹して命を絶つ。藩士達は完成記念と死者の霊を慰めるために、郷里から日向松を取り寄せ植える。これが三重県木曽川三川公園近くに「千本松原」として現存している

▼福井や新潟等で堤防が決壊し大きな災害を被った。いつだって同じ、事後になって一様に防災が叫ばれる。何をもって財産を守るのか。これこそ公共事業以外にはあるまい。治水、治山は国家事業として古くから推進されてきた事業だ。昨今、財政難を理由に事業が疎かになってはいないだろうか。(水・YH)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら