コラム

2005/03/12

あの富士見高原療養所が(新・KS)

2005.03.12 【あの富士見高原療養所が】

▼富士見高原療養所の存続が危ぶまれている。小説『風立ちぬ』に登場するサナトリウムだ。それは、長野県の八ヶ岳山麓にひっそとりある。作者・堀辰雄が結核にかかった婚約者とともに入った場所。『風たちぬ』は、そこでの生活を振り返った作品で、「風たちぬ、いざ生きめやも」というフレーズが有名だ

▼作者・堀辰雄はサナトリウムについて次のように書いている。「私はその森を出た。大きな沢を隔てながら、向こうの森を越して、八ヶ岳の山麓一帯が私の目の前に果てしなく展開していたが、そのずっと前方、ほとんどその森とすれすれぐらいのところに、一つの狭い村とその傾いた耕作地とが横たわり、そして、その一部に幾つもの赤い屋根を翼のように広げたサナトリウムの建物が、ごく小さな姿になりながらしかし明瞭に認められた。」と

▼富士見高原療養所は、作家でもあり医者でもあった正木不如丘(まさき・ふじょきゅう)の私立の療養所。慶応大学医学部出身の医員10人と、同じ慶応大学で経験を積んできた優秀な看護婦が患者のケアにあたり、料理長も東京から連れてきた。診療科目には、内科のほか外科や眼科があり、結核性肋膜炎や脊椎カリエスなどの患者が加療された

▼病棟は平家建ての日本間を7室備えた「石楠花」をはじめ、洋風の6人部屋を5室配した「龍胆」、2階建てで総坪数250坪の「白樺」があり、白樺の東端には2つの特別室(洋風病室・付添用の側室2つ・バス・トイレつき)があった

▼いつも思うのだが、こういう問題が生じた時、存続か廃止かの二者択一に囚われない、妙案はないものだろうか。(新・KS)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら