コラム

2005/06/22

閉塞社会での希望(松・JI)

2005.06.22 【閉塞社会での希望】

▼誰もが年を重ね、老いていく。ここに希望を見出すことは難しいのだろうか。ある調査で、年を取ることに不安を感じる人は20〜39歳で87%、40〜54歳でも88%という結果が出た。不安要因では介護が必要になる、病気になる、定期的収入がないなどが高い数値だ

▼将来への希望が見えなくても時は着実に進む。闇に向かって歩いているようなものだが、すでに真っ暗の中で迷子になっているのかもしれない。将来への不安を少しでも緩和すると同時に、現在の生活に希望を見出すには何が必要なのだろうか

▼村上龍氏の短編集『空港にて』(文春文庫)を読んだ。コンビニや居酒屋など日常的な場所を舞台に、極めて個人的な理由で海外など遠地へ飛び立とうとする者たちの希望を描いたものである。表題作では、ひとりの女性が義肢装具士の勉強に興味を抱き、学校のある熊本県へ見学に行くため空港に来ている話。一緒に見に行く男性を待つ間の心境が綴られている

▼村上氏は本書のあとがきで「希望のようなものを書き込みたかった」と述べている。閉塞感の強まる日本社会では、海外に出るというのは数少ない希望であるのかもしれない、とも書いている。確かに新天地に飛び立つ行為は華やか。だが一方で情報不足や文化・思想の違いから悩むことも多いと聞く

▼飛び立つにせよ現況を改善するにせよ、現状から一歩抜け出そうとする気持ちが大事であろう。小説の登場人物には「理由は見当たらないが何故か自分の心を突き動かす衝動のようなもの」がある。きっと閉塞社会においては、こうした「心の衝動」が希望の原点になるかもしれない。(松・JI)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら