コラム

2005/07/28

渓流に刻む時の流れ(松・HK)

2005.07.28 【渓流に刻む時の流れ】

▼梅雨も明け本格的な夏の行楽シーズンを迎えた。もっぱら釣りに興じている友人に誘われ、久しぶりに嬉々として近くの渓流遡行に出掛けた。北アルプスを源流とする3渓流である

▼まず乳川(ちがわ)は、流れも河原の石も透き通るように白く、乳房を連想させることからその名が付いたと聞く。近くにチョウゲンボウの営巣地があるのか、翼をひろげた優雅な姿を谷筋の風に乗せ披露してくれた。常念岳や蝶ガ岳の登山道に沿って流れをつくる烏川(からすがわ)。ここは、訪れる度に必ず猿の親子が出迎えてくれる。そして釣り人には人気スポットとなっているようだ

▼そして中房川(なかぶさがわ)。冬は雪でその道を閉ざされる中房温泉の傍らを流れ下る。河原に立ち、深呼吸をすれば硫黄の匂いを感じることが出来る場所なのに岩魚が生息しているから驚きだ。3渓流3様の隠しもった魅力は、訪れた者を日常生活から逸脱させてくれる

▼残念なことに共通しているのは、昨年秋の台風による大きな爪跡である。優に100メートルはあるであろう規模で山肌が木々を流れ落としている。一枚岩が見事に剥がされ、無残な残骸が清流を塞き止めている。当然のことだが、災害復旧は人々の生活圏に向けられ、重機が入ることも叶わない山奥は痛々しい姿のまま残される

▼再びこの地に足を踏み入れるのがいつになるのか解らない。一人の人間が営む時間など壮大とか悠久といった形容には当てはまらないだろう。しかし大きな傷痕はそのままでも、3渓流がまた違った沢の様相を見せてくれるのを楽しみにしたい。大自然の治癒力とも言えるであろう営みを。(松・HK)

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