コラム

2005/10/28

過去と向き合う(水・KK)

2005.10.28 【過去と向き合う】

▼「病気をしない」、「怪我をしない」に加えて「気にしない」−大相撲で出世するための条件だそうだ。相撲に限らず、己の腕と度胸を頼りに戦う格闘家にとって、勝ち負けをいちいち気にするようなやわな神経ではたかが知れているという格言なのだろう

▼プロボクシング日本フライ級チャンピオン内藤大助は去る10日、世界王者ポンサレック・ウォンジョンカムに負傷判定で敗れた。勝てば「オレが強かったから」、負ければ「ラッキーパンチだった」、「コンディションが悪かった」とある意味、気持ちの切り替えの上手いボクサーが多い中で、彼は正直な選手だ

▼内藤は2002年4月に敵地でポンサレックに初回34秒でKO負けしている。これは日本選手の世界戦、フライ級の世界戦として史上最短記録だ。歴史的屈辱に内藤はとことん落ち込んだ。「ショックで眠れず、睡眠薬を使ったほど。立ち直るのに何ヵ月もかかった」と彼は告白する

▼往年の剛球投手村田兆治さんは真に精神的に強い人だった。ピッチャーにとって一番うれしいのは勝ち星だ。それがラッキーだろうが勝ちは勝ち。「運も実力のうち」と言われるが、村田さんは勝ち星の内容を検討し、打線の援護や相手のミスで得た星は自分自身の成績表から外すという査定を自らに課していた

▼「悪びれずに過去と向き合う」ー内藤大助の信条だ。34秒KO負けという惨敗。普通なら二度と与えられないであろう再挑戦のチャンスを彼は真正面から自己を見つめ、努力を重ね、周囲を納得させる実績を残すことで掴んだ。3年越しのリベンジは果たせなかったが、心からの拍手を送りたい。(水・KK)

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