コラム

2006/02/16

もう1つのデータベース(甲・SY)


▼夜の街道を歩く夢を見た。江戸時代の東海道など5街道には常夜灯があって夜間街道を歩く旅人のために灯を提供していたそうだが、古代の街道なのか、灯がまったくなく、真暗闇だった。朝から何も食べず、歩きつづけたせいで、空腹感も限界だった。現代ならレストランやコンビニは数10m歩けば1つや2つあるはずだが、夜の闇はどこまでも限りがない

▼鬱蒼とした林が街道の両脇に続く。ふと、前方に小さな明かりが見える。気力をふりしぼって駆け出した。近づくと蕎麦屋だった。あまりガツガツして飛び込むのも大人気ないので、ゆったりと暖簾をくぐり、中に入った。馴染みなのだろうか、80代くらいの客が3人、同じ年格好の店主と昔話をしていた。それも少し話すと蕎麦をすすり、また、食べるのをやめ、ぽつりぽつりと話し出すのだ

▼「あそこの家族は皆優秀で働き者だった。○○の長男は中でも優秀だった。でも、出征して戦死してしまった」。話を聞いていると、長男だけでなく、一族すべて過去の人のようだった。昔話とはそういうものだろうが、蕎麦をすする老人が語らなければ誰も気にとめる者もいない

▼こういう昔話は江戸時代も現代も大きく変るところがない。出征の話も、幕末維新の戦いか、太平洋戦争なのか夢なので判然としない。かつて幼い頃、耳にしたようなー。そこまできて目が覚めた

▼かつては全国の町や村に長老がいて土地の古くから伝わる話を次の世代に伝えた。語り継ぐ地方史データベースだ。昭和も遠くなりつつある今、貴重なデータが全国で失われつつある。味わい深い語りにもっと耳を傾けたいものである。(甲・SY)

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