コラム

2006/02/17

初春歌舞伎を残したもの(本・MK)


▼伝統芸能の舞台である国立劇場で正月を彩る初春歌舞伎を初めて鑑賞した。熟達の尾上菊五郎劇団が公演したのは、天保9年再演以来、168年ぶりの復活となった鶴屋南北作『通し狂言・曽我梅菊念力弦』(そがきょうだいおもいのはりゆみ)

▼曽我ものは鎌倉時代初めの曽我兄弟の敵討ち物語で、江戸時代の演劇界ではバイブルとなった。2つ以上の世界を混ぜ合わせた綯(な)い交ぜ話しは、敵討ちの世界を借り、盗賊の徳次郎とおはん、大工の六三郎とおそのの2組の「男女の仲」を核に展開される。盗賊と大工は菊五郎が、おはんとおそのの姉妹役は菊之助が、それぞれで2役を演じた

▼二枚目の六三郎は粋を、盗賊の徳次郎は悪党のすごみを利かせた名演技で芝居全体をリード、おそのとおはんは流され行く姉妹の姿を描き出した。おはんが徳次郎の顔を見て、一目ぼれする滑稽な場面は、歌舞伎ならではの笑いを盛り上げた

▼外は厳しい寒さであったが、場内は華やかで熱気に満ちていた。下町の風俗が生き生きと描かれた「洗い湯」での裸身や色模様、最後の藤棚での軽快な立ち回りまで、4時間半の舞台を飽きさせず見せるのは、さすが菊五郎劇団。正月らしく最後は目出度し目出度しで締めくくられた

▼年初早々十二分に楽しませて頂いた。終演後に劇団がお年玉として観客に投げ与えた、手拭い捲きがゲットできなかったのが少々心残りだったが、歌舞伎から清涼剤を頂いたのは有り難いことだった。なるほど、歌舞伎が世界無形遺産に選ばれたことだけのものはある。何事も初めてのものには味と感動があるものだが、歌舞伎はまた格別であった。(本・MK)

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