コラム

2006/03/25

数値化出来ないこと(本・JI)


▼「あの人、意外と背が低かったね」。夕刻の電車内の中年女性2人組。芝居のパンフレットを広げ、俳優の話に花を咲かせていた。片方が唐突に「さて家に帰って夕食作らなきゃ。今日は魚」と独り言のように言う。劇場という非日常的な空間から、極めて日常的な現実に突然引き戻されたようだ

▼奈良県平群町が騒音防止条例を制定した。きっかけは日常的に大音量でラジカセを鳴らし続け付近住民を苦しめた「騒音おばさん」事件。一住民の迷惑行為を背景とした条例は珍しいという。条例は午前8時〜午後8時は65デシベル、午後8時〜午前8時は60デシベル以上を騒音と規定。しかし毎日のように被害を受けた人々の苦しみは計り知れない。ましてや数値では表すことができない

▼今国会で制定されるであろう住生活基本法。住宅の「量」を掲げたこれまでから、住生活の「質」へ転換を図るものである。秋に策定される見通しの基本計画には、10年後の成果目標として耐震化率やバリアフリー化率などを盛り込むという

▼この率が住生活における質を表すということなのだろうが質の定義は多様である。その為、住みやすさというものは、こうしたハード面の充実だけなのだろうかと疑問も湧いてくる。騒音被害の苦しみと同様、住む者の心は数値で表すことができない

▼芝居などの非日常が人々に好まれるのは、日常からの解放を求めるからだろう。若き日、コンサート幕開け直前の客席で「明日の弁当に玉子焼きを入れるか否か」で妻と大喧嘩した事を思い出した。あの時の「その話は後にしてくれないか」という苦悩も、数値では表すことができない。(本・JI)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら