コラム

2006/05/16

市民によるまちづくり(本・JI)


▼日本建築学会の主催による、まちづくりシンポジウムを取材した。幾つかの講演がある中で、作務衣を着て登壇した新潟県村上市の商店会会長・吉川真嗣氏の実践報告が印象強く残った。吉川氏が行ったのは城下町の町屋を舞台とした、商店街の再興である

▼氏は商店街の近代化計画に反対運動を展開。非難され、運動もつぶれたが「町屋の魅力を活かしてまちを活性化させる」と方針を転換。観光客に町屋の中を公開しはじめた。賛同する商店主の人数も徐々に増加。ひな人形を町屋の中に展示するイベント「人形さま巡り」では、ポスター代など費用35万円だったにもかかわらず、3万人の観光客が訪れて経済効果は1億円以上だったという

▼吉川氏は景観再生にも取り組む。ブロック塀などに黒い板を取り付ける「黒塀プロジェクト」を実施。一枚千円の黒く塗った板を市民の手で貼り付けるもので、低予算でまちの外観は情緒あふれる街並みに一変した。現在はアルミサッシなど近代化した部分を、昔ながらの格子や板戸に戻す「外観再生プロジェクト」を進めている

▼「まちおこし」が「まちづくり」になったと語る吉川氏。彼による一連の取り組みは、市民によるまちづくりの好例と言って良いだろう。講演が終わり、湧き上がる拍手を受けて、氏は会場内の自席に戻っていった

▼ところが吉川氏「言い忘れた」と再び立ち上がり、マイクを通さず大声で話し始めた。「当初は支援がなかった。国が支援してくれるようになって、ようやく県と市も協力してくれるようになった」。会場はこの裏事情に、大笑の渦と化した。しかし追加したこの一言の意味は実に大きい。(本・JI)

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