コラム

2006/05/17

夢の夢を実現に(さ・SE)


▼一番古い記憶にも現れる幼馴染の父親が先日、他界した。彼の父親は大工であった。簡単な修繕から改築まで、近所の家からも注文が多く、遠くから声がかかるほどの腕前を持っていた。ただ、家の中ではダンマリを決め込む根っからの職人気質の父親だったことは初めて耳にした

▼その息子とあって、小さいころからカンナやノコギリといった刃物の扱いは抜群だった。「大きくなったら大工さんになって、家をつくる工場をつくってあげる」と言っていた彼の言葉に顔をくしゃくしゃにして喜んでいた笑顔を思い出す

▼久しぶりに再会した彼は、商売道具をハサミという刃物に変え、予約が取れないほどの美容師になっていた。マンション建設ラッシュで父親の仕事量は減り、毎日カンナの刃を研ぐ姿を目の当たりにして「建設業界はこの先夢が見えない」と、子供のころの夢は摘み取られた、と

▼葬儀を終え、仲間たちと昔話に華を咲かせている傍らでは、彼の息子が積み木で遊んでいる。このころは夢も持たずに走り回っていたなと思いながら声をかけると「大きくなったらおじいちゃんみたいに大工さんになる」「そうかそうか」と、ほころぶ彼の顔と亡くなった父親がラップする。子供は「パパのお店をつくってあげる」。この言葉にハっとした彼は、溢れる涙をぬぐおうともしなかった

▼「何でもいい、夢を持ったらつかみ取るまで突き進め」が口癖だったという父親の言葉どおり夢を手に入れた彼は、今度は子供の夢を現実にしてあげたいと。何年も続いている業界の厳しい環境。小さい子供の目に映る夢の世界に携わっている者たちにとって、今、何ができるのだろう。(さ・SE)

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