コラム

2006/07/18

書かなくて良いのか(本・JI)


▼ある年の真夏日。国土交通省内で審議会の会議を傍聴取材した。広い会議室に大学教授ら審議委員が並び、反対側に座る国交省職員の説明に耳を傾けては持論を展開する。今後の日本の行方を担う極めて重要な会議だけに、緊張感のある張りつめた空気が流れている。ふと視線をずらすと、記録係の女性の様子がおかしい。ペンが止まっている。記録していないのである

▼彼女は居眠りしていた。まだ20代であろう彼女の上体が、少しだけ舟を漕いでいる。「書かなくて良いのか」あとで録音テープを原稿に起こすのだろうが、少し心配してしまう

▼記録係の女性だけではなかった。隣に座る某紙の記者も眠っている。彼は録音機材を使用していない。「書かなくて良いのか」こちらが心配してしまう。資料に書かれていない具体的数値も、資料の訂正事項も聞いていない。彼の手元にある紙束は、今にも指先から流れ落ちていきそうだ

▼目を覚ました記録係の女性が、何事もなかったようにペンを走らせる。しかし今度はペンを持つ右腕が気になるようである。右腕の脂肪をつまんでは放し、たるませる。再度つまんでは放し、たるませる。左腕でも繰り返す。「書かなくて良いのか」またもや心配してしまう。しかし若き女性にとって、半袖から伸びる二の腕のあり方は重要であり、もしかすると日本の行方よりも深刻なことかもしれない

▼広い会議室では、今後の施策づくりに向けた熱い議論が続く。国交省職員がまとめた案に、審議委員からの厳しい注文や意見が飛ぶ。その横で、涼しい顔をして静かに居眠り、脂肪チェック。なるほどクールビズとはこのことか。(本・JI)

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