コラム

2006/08/25

春日局にみる女性の強さ(水・KK)


▼11日の小欄で、家や子孫の繁栄のために身を捨てて戦った戦国武士の生き方に触れた。歴史の陰に隠れがちな女性の中にも男まさりの活躍で運命を切り拓き、婚家を大名家にまで押し上げた女性がいる

▼徳川3代将軍家光の乳母春日局こと福。実母説もささやかれるほど献身的な養育で知られるが、彼女が乳母になった動機は不幸な生い立ちからだった。福の父は明智光秀の重臣斎藤利三。本能寺の変に続く山崎の合戦で敗れた利三は謀反人として処刑される

▼福の結婚相手の稲葉正成は父の仇豊臣秀吉の家臣で、その後秀吉の名で小早川秀秋の家老となる。正成は関ヶ原の戦いで小早川軍の東軍への寝返りを画策した人物である。東軍勝利の陰の立役者だったが正成は小早川家を辞し浪人してしまう

▼幼い頃、父の無残な死を目のあたりにした福の宿願は実家斎藤家の再興だった。正成との結婚もそのためだったという。しかし今度は夫が失業。乳母応募はそんな折だった。福が家光の乳母になると同時に息子の正勝は小姓に採用され、その後大名に取り立てられ稲葉家は明治維新まで続く

▼福の働きによって、実家の兄斎藤利光は4代将軍家綱に老中として仕えるなど一族は大きな恩恵を受ける。だが当時から春日局の評価は極めて否定的だった。「幼くは親に従い、長じては夫に従い、老いては子に従う」という『三従の道』に代表される江戸時代の儒教的な女性観からはやむを得まい。今日も「お局様」といえば「猛女」のイメージが強い。しかし春日局がいなければ斎藤家、稲葉家の再興は叶わなかっただろう。彼女は実家、婚家にとっても乳母であった。(水・KK)

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