コラム

2006/10/30

前川の精神を胸に(新・KK)


▼新潟市出身で、日本近代建築の先駆者と呼ばれた前川國男の生誕100年、没後20年に当たる今年。地元の新潟市で開催された建築展を訪れ、改めて氏が残した功績に感銘を受けるとともに、今も息づく精神と先見の明に驚いた

▼前川は、近代建築の世界的主導者ル・コルビュジエ(フランス)に師事し、合理性と機能性を重視した近代建築を日本で実現。特に建築技術の近代化や耐震性の向上、気候環境への対応等の問題に取り組み「神奈川県立図書館・音楽堂」「東京文化会館」など、日本の建築史に残る作品を完成させた

▼近代的な作品を生み出す一方で、高度経済成長期に低コストや生産性の向上が招いた建築の質の低下に対して自ら疑問を投げかける。以来、「人間の建築」を唱え、時流、権力、営利、悪徳に屈しない、建築家としてのあるべき姿を厳しく訴え続けた。建築家の職能と職業倫理遵守の必要性を説き、今年のダンピングや耐震偽装に対し、40年も前から警鐘を鳴らしていた

▼前川の父親は内務省の土木技師だった前川貫一で、東洋一の大工事と呼ばれた大河津分水路の実現に尽力。工事は困難を極めたが、前川の父は最先端の技術を投入、近代的な手法による河川改修工事に立ち向かった。奇しくも今年10月には、大河津可動堰の改築工事が起工したところであり、時間を越えて「前川の精神」が蘇った

▼先の建築展は前川が晩年手掛けた「新潟市美術館」で開催された。建築に永遠性を求めるために開発した『打込みタイル』の技法が取り入れられた外観は美しく、周囲と見事に調和している。間もなく、周囲の木々が赤く染まる頃を迎える。(新・KK)

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