コラム

2007/06/18

カベを越える(東京・JI)


▼自転車は、運転手が自らバランスを保ちながらペダルをこいで進む。こんな当たり前のことが、補助輪を外したばかりの子供にはできない。不可能を可能にすべく、4歳になる息子の運転練習をサポートした

▼自転車の後ろを支え、声をかける。「ペダルをこがなきゃ進まないぞ」「下を見るな前を見ろ」少し慣れた頃に手を放してみると、案の定ハンドルを左右にぐらぐらと振って蛇行したあげくに倒れた。手を放した父親に対する怒り、横転の恐怖、肉体の痛み。小さい体で自転車を蹴飛ばし踏みつけ「もう終わり」と泣き叫んでいた

▼生きていく中では誰しもが、なかなか越えられない「壁」に遭遇する。この難題に、人はどう立ち向かうのか。あきらめて後退するか、真正面からぶつかっていくか、乗り越えようとするか。対応も手段も人によって違うだろう

▼野村庄吾著『乳幼児の世界ーこころの発達ー』(岩波新書)に、主体性について記述があった。人は自分が主体的にかかわれる行為のときに「もっとも生き生きと美しく見える」「もっとも気持ちよく、最大の力が出ます」とある。これは乳幼児に限らず大人も同じことだろう。能力を発揮するには自らの挑戦する気持ちが必要だ。何事も、あきらめがちではうまくいかない

▼初日は失敗に終わった息子も、翌日は練習熱心に。ケガをしない倒れ方も身につけ、ついには一人で乗れるようになった。壁を乗り越えた息子の姿に、妻は人目もはばからず泣いていた。今度はペーパードライバーの妻が車の運転を練習する番だ。怒りで車を蹴飛ばされないよう、丁寧に教えるつもりである。(東京・JI)

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