コラム

2007/08/08

祖母のいる地で(群馬・HM)


▼青森に住む祖母がいる。子どもの頃、夏休みになると毎年のように遊びに行った。振興住宅地で育った筆者にとって、ここでの数日間は発見の連続だった。澄んだ小川の脇を通ると、つややかな黒い羽を持つ糸トンボが飛んだ。裏の田んぼでは、面白いようにドジョウが捕れた。祖母がそれを団子にして食べさせてくれた。空がやたらに広かったのを今でも鮮明に覚えている

▼その祖母が調子を崩しているという。もう90歳だ。ボケも始まってきている。見舞いのために母と兄と青森へ向かった。新幹線での旅はいたって快適、約3時間という乗車時間は、それこそ「あっという間」。夜行で帰省した事がある母は「便利になった」と繰り返す。筆者自身も飛行機に比べて、こちらの方が随分楽だと感じた

▼車で祖母の家へ向かう途中、その新幹線の高架の下をくぐった。祖母の家のすぐ近く。思い出の景色が壊されている気がして、さっきまで「便利だ」と喜んでいたその口で「何か無粋だね」と不満を言った。随分勝手な物言いだと思う

▼一方で、便利さというのはそういう二面性を持っているものだと改めて思う。便利さのための破壊と言えば過激過ぎるだろうが、利便性を追求すれば失うものも出てくる。大切なのはバランスで、良くないのは、それを一方向からだけを見て、批判するような軽々しい行為だろう

▼夕日は昔のままだが背景には黒くそびえる高架ある。確かに思い出の風景は変わってしまったように見える。しかし振り返ってみると、そこには子どもの頃に見た広い広い空が、変わらずに筆者を待っていてくれた。思わず暖かいものがこみ上げてくる。(群馬・HM)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら