コラム

2007/10/03

ダムに沈む街の再建を願う(群馬・NK)


▼「いらっしゃい!」小さな店内に入ると人懐っこい笑顔のおばあちゃんが迎えてくれた。群馬県長野原町の川原湯温泉で土産物屋「お福」を営む樋田ふさ子さんがその人だ。川原湯温泉の老舗旅館「丸木屋」の女将を隠居し、館主だったご主人と始めたこのお店。ふさ子さんの気さくな性格を慕ってか、「また来たよ」と遊びに来るリピーターも多い

▼「長男達に旅館を任せてからは、ゆっくり過ごしています」と笑うふさ子さんだが、群馬県吉岡町の農家から川原湯へ嫁ぎに来たころは苦労もたえなかった。「旅館業のことは何も知らなかったので、戸惑いもありました」。結婚に反対する一部の親族からは「農家の娘に老舗旅館が務まるわけがない。うちの嫁は三日で逃げ出す」とも言われた

▼こんな時、ふさ子さんを救ったのは、先代の女将さんの言葉だった。「私は叩き込んで教えるつもりはないよ。自分の目で見て、覚えていけば良いのだから」。「この時は、本当に救われた気がして、一から覚えていこうと思いました」と当時を振り返る

▼あれから数10年。ふさ子さん達が思い出を刻んだ川原湯は、八ッ場ダムの建設に伴い湖底へ消えようとしている。ダムの完成により、カスリーン台風級の氾濫被害などを軽減できる恩恵を受ける我々は、大きな犠牲をおった人々の姿を胸に刻む必要があろう。決して忘れてはならない

▼思いは「きっと、若い人たちの力で代替地に新しい川原湯を築いてくれるはず」。人生を刻んだ地を失う深い悲しみを受け入れ、前向きに生きるふさ子さんに、多くの人々で賑わう新川原湯を見とどけて欲しいと切に願った。(前橋・NK)

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