コラム

2008/02/28

「お湯わいた」奇祭(群馬・HM)


▼群馬県長野原町の川原湯温泉にはちょっと変わった祭りがある。大寒の日の夜明け前、「お祝いだ」のかけ声とともに、ふんどし姿の男たちが源泉をかけ合う「湯かけ祭り」だ。約450年ほど前、一度湯が枯れた時に鶏を奉納したところ再び湯が噴き出したという。この時に喜んだ住民らが「お湯わいた」といって湯をかけあったのが祭りの起源とされている

▼この歴史ある温泉街が今、大きな転換期を迎えている。八ッ場ダムの建設に伴い、ダム湖に沈むのだ。ダム建設後は代替地に移転することが決まっているが、積み重なった時間がそのまま歴史となり魅力となっている温泉街にとって、この移転の持つ意味は大きい

▼移転前に一度はぜひ見てみたいと思っていた奇祭に今年ようやく行くことができた。真冬の夜明け前。身を切るような寒さの中、厳粛な雰囲気の神事に続き、いよいよ湯かけが始まる。予想以上の迫力だ。次々と飛び交う源泉に周囲は湯気に覆われ、「お祝いだ」の叫びがこだまする。こちらも頭から足先までびしょぬれになる。気温は氷点下、お湯はすぐに水になり凍る

▼迫力のある祭り、と聞くとケンカ御輿のような荒々しいものを想像しがちだが、この祭りは違う。楽しいのだ。みんなが笑いながら湯をかけ合う。まるで湯がわいた時の喜びの感情がそのまま場に残っているようだ

▼代替地への移転後、多分今とは違う雰囲気の祭りになってしまうのだろう。しかし、この楽しく明るい祭りを400年以上続けきたパワーがあれば、きっと素晴らしい祭りを生み出してくれるだろう。新しい歴史を刻むに違いないと確信している。(群馬・HM)

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