コラム

2008/03/07

よみがえる幼い日の全力(山梨・OS)


▼先日、押し入れの整理をしていたら、子供の頃に書いた一枚の絵が出てきた。それは小学校3年生の時に書いた、同じクラスの女の子の似顔絵だった。週に2時間あった図工の時間に隣の席の子の似顔絵をお互いに描き合うという課題だった

▼筆者は絵心が乏しい。だから図工の時間など楽しくなかった。犬を書いても猫を描いても同様に見えるし、風景や人物を書いても良く見られたという記憶がない。残念だが、今見てもやはり自画自賛はできない代物だ。だから図工の時間はいつも憂鬱だった

▼しかしその時は違った。たいていの学校ではクラス内で定期的に席替えというものがある。その名の通り教室内で自分の座る席があちこちに移動するだけなのだが、これが意外に真剣勝負だった。小学校3年生ともなると同じクラスに好きな子ができたりする。表立ってその気持ちを表現する者は少なかったが、密かにあの子の隣にと願っていた。無論筆者もその時ばかりは真剣に神様に願ったものだ

▼奇跡は起きた。年に数回しかない席替えのくじ引きで、好きだったクラスで一番人気のある子の隣を見事に引き当てたのだ。似顔絵を描くことが楽しくないわけがない。上手に描いてあの子を「あっ」と言わせたい。その一心で必死に描いた。しかし出来上がった絵はかわいいあの子とは違っていた。絵をお互いに交換することになったがどうしても渡したくなかった。泣きながら拒み結局持ち帰った

▼そんなことを思い出しながら出てきた絵をあらためて見ている。これ以上ないくらい必死に描いた絵。記憶の中のあの子にそっくりに描けているようだが。(山梨・OS)

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