2008/05/28
チューリップの逆襲(山梨・CT)
▼茶道を習い始めてから季節の花に興味を持ち始めた。茶道具にも花をモチーフに使ったものが多
い。和装に触れる機会も多くなったので着物も楽しめるようになった。花柄を選ぶ時は季節を少し先
取りするのが「粋」らしい
▼茶道のお師匠様は生け花の師範でもある。ある日、稽古場を兼ねたご自宅にお邪魔するとリビン
グに見事なシクラメンが。しかしこの鉢植えには見覚えがある。確か葉も茎もぐったりと垂れていた
はずだ。「新しいものですか」。尋ねると先生は笑って「いいえ。せっせと水をあげて陽に当てたら
みるみる元気になったのよ」
▼美人をたとえる「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」は江戸時代のことわざ集「世話
尽」(せわづくし)に記載されている。日本人は古くから花を愛で生活や文化に取り入れてきた。ま
た花言葉でもわかるように世界中の人々が花と深く関わり合ってきた
▼皮肉なことに世界最初のバブル経済は「チューリップ・バブル」だといわれている。オランダで
1637年に起こったこの事件は、チューリップの球根に異常な高値がつき、一時は家が買えるほど
だった。そのチューリップが今の日本では無惨にも切り落とされている
▼鑑賞の為に人は花を切ったり植え替えたりする。人間の勝手で手が加えられたのだから「最後ま
できれいに咲かせてあげるのが努めです」と先生は言う。時間と手間と何より作り手の思いが込めら
れている花壇に悪意を向ける人がいる。被害額は大きくないかもしれないが目に見えぬ罪は重い。チ
ューリップ被害が混沌とした時代の象徴ならそのツケはバブルの様に我々に帰ってくる。(山梨・C
T)