コラム

2008/11/13

東山魁夷の「道」(群馬・HI)


▼日本画家の東山魁夷は、今年生誕100年になる。東京国立近代美術館と長野県信濃美術館東山魁夷館で開かれた「生誕100年東山魁夷展」には多くの人が訪れ、東山作品の持つ、清新、静寂といった叙情性に感動をあらたにするとともに、「日本の美」を再認識した展覧会となった

▼東山の代表的な作品に「道」がある。昭和25年に描かれた東山の出世作だ。足元の小道が、まっすぐに伸びていくこの作品は、第二次世界大戦で敗戦した日本にあり、復興に立ち向かう人に生きる勇気と希望を与えた

▼この作品は、単純な色調と構図から、即興的に描きあげられたように見えるが、近づいて良く見ると、一筆一筆にしっかりとした強い意志が感じられる。路面には轍(わだち)や水たまりの跡のようなものも描かれ、実物の路面を見るように、見事に写実的である

▼「生か死か、それが問題だ」と言ったのは、シェイクスピアの悲劇「ハムレット」だ。ハムレットは、父でもあるデンマーク王を、叔父に毒殺され、その叔父が王に君臨するという状況下で発した言葉だが、我々が日常でも、夢や希望が見いだせない時、ハムレットが発したこの名言の一端を感じることができる時もある

▼今、この時代に東山が「道」を描くとしたらどのような「道」となるだろうか。この作品のように、何もないが大きな未来を予感させる「道」とはちがうものになるだろう。色調は暗く、道も細く曲がりくねり、行く先は闇の中へ消えているかもしれない。現代のような不確実な時代に生きる時、足元の道をどのように歩んでいくのかが個々に問われる時代でもある。(群馬・HI)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら