コラム

2009/12/21

簡潔明瞭な答え(新潟・CS)


▼国会議事堂が70年ぶりの化粧直しを終えた。衆院選前には大半がシートで覆われており、新議員初登院に合わせ中央玄関の工事を優先した。このニュースに触れたとき、あるアメリカの現代美術家夫婦を思った

▼1995年6月、ベルリン。旧帝国議会議事堂「ライヒスターク」が14日間だけ、巨大な布にすっぽりと包まれた。工事の覆いではない。クリスト&ジャンヌ=クロードの「梱包」の代表作だ。フランスの橋「ポン・ヌフ」や、断崖絶壁など、これまでに包んだり設置したりした作品は、圧倒的なスケールで日常の中に出現し、しばらくすると何事も無かったように消え去る

▼同時進行で複数のプロジェクトを抱え、その1つだけでも数十億もの資金を要するが、自由な表現に重きを置くためスポンサーはいっさい受け付けない。プロジェクトの準備で描いたドローイングなどを売って資金を得る、まさに自己完結型

▼最も困難なのは場所の許可を取ることだ。ドイツ連邦議会は「ライヒスターク」の申請をたびたび却下。が、粘りに粘って実現に漕ぎ着けた。政治家や地域に地道に説明して回り、説得に24年を費やした。2005年、ニューヨークはセントラルパークでおこなった「ザ・ゲーツ」は実現までに26年。申請書類は2000頁を超え、専用に会社まで設けた

▼2年前、来日した夫妻の講演を聞く機会に恵まれた。「そうまでして、なぜつくるのですか?」。ジャンヌは簡潔に答えた。「Joya&Beauty」。日本の国会議事堂が同様に包まれるのを想像できるだろうか。11月18日、帰らぬ人となったジャンヌなら、首をすくめて笑うかもしれない。(新潟・CS)

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