コラム

2010/03/25

二兎を得る挑戦(新潟・CS)


▼昨年の今頃、閑静な住宅街の奥まった角で、道行く人がみな同じ所を見上げては、歩調が緩む。近づくと、1本の桜が華やぐ満開。強面の男性も、無表情な若い女性も「あッ」という表情で見上げる。顔が無防備にほころぶ。以来、季節の主役、桜それ自身はもちろん、人々が見上げるさまを眺めるのも楽しみの一つとなった

▼春の訪れより少し早く、ここ3年ほど気にかけていたことが報じられた。青函トンネルを走る新幹線に、貨物列車をまるごと載せる「トレイン・オン・トレイン」。この実験車両をJR北海道が初めて公開した

▼トンネル内には、速度の遅い貨物列車を新幹線が追い越す待避線がない。貨物列車の本数と、スピードが売りの新幹線。どちらも確保する驚きの策が「まるごと載せる」ことだった。構想では時速200キロ、積み替えも10分ほどという

▼JR北海道はこの件について閉鎖的で「取材には一切応じない」の一点張り。筆者は、工学の見地から関わったとされる大学教授に取材したり、電車の撮影を趣味とする「撮り鉄」から写真を譲り受けたりと、七転八倒した

▼JR北海道といえばデュアル・モード・ビークルがおなじみ。赤字ローカル線の廃止が深刻化するなか、地域の事情に即した公共交通の切り札として開発された。レール上では電車。レールがなくなればタイヤを出してバスに変身する「夢の乗り物」だ。実用へ向けて試験運行を重ねている

▼同社の挑戦は、気概に満ち勇気付けられる。少し遅れてやってくる北の大地の春。桜とともに、一斉に花々が咲き乱れるのだ。さて、すぐに新年度。顔を上げ、挑戦の年にしたい。(新潟・CS)

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