コラム

2011/02/05

重い伝統の由来(新潟・CY)

重い伝統の由来

▼新潟県の市役所職員からこんな話を聞いた。合併後も、個々の集落が継承してきた郷土芸能を一堂に会す催しを企画したが、ある集落の参加が無い。「お役所的と言われるかもしれないが、せっかくの催し。こちらの神楽にぜひ参加して欲しい」と懇々と趣旨を説いたが答えはノー。

▼「神楽は神様のものだろう?」と自治会長は言った。奉納の舞を市の催しで披露することに、違和感があるという。「そう言われてハッとした。彼らが守り受け継いできたもの、土地に根付いたものに改めて頭が下がった」。

▼小正月、節分とさまざまな行事に触れる機会が多い時期。長い長い歴史の中で、今と未来を意識する節目でもある。文化的な営みは景気いかんで隅に追いやられがちだが、伝統の由来や意味はひとたび失われると取り戻すことは難しい。

▼生まれ故郷の旧巻町(現・新潟市)に、江戸末期から伝わる玩具「鯛車」がある。細く割いた竹で骨組みをつくって、和紙を張り、木の車輪を施したもの。蝋でウロコの模様を描き、本体は真っ赤に、下部は海の青を絵付けする。お盆の夕暮れ時には明かりを灯し、子ども達が引いて歩いたというが、時代とともに忘れられていった。復活へ向け地元が立ち上がったのが数年前。いまでは商店街再生のシンボルとして、各店の軒先で愛嬌を振りまく。

▼残念なことにその由来は不明という。「奉納」と断じた集落を少しうらやましく思い、我が家の鯛車を探した。埃を被り色あせてはいたものの、損傷は無い。「張りかえはお安い御用」と祖母が言う。ここはひとつ教わって、兄弟3つ分の鯛車を蘇らせてみたい。(新潟・CY)

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