コラム

2011/02/11

権威をしのぐ職人の誇り(茨城・KK)

権威をしのぐ職人の誇り

▼「庄兵衛の心の中には、いろいろと考えてみた末に、自分より上の者の判断に任すほかない、オオトリテエ(authority=権威)に従うほかないという思いが生じた」―安楽死の是非をテーマにした森鴎外『高瀬舟』の一節である。

▼最近、権威なるものに疑問を感じることが少なくない。遺失物横領容疑の任意の事情聴取で警官が取調室で男性会社員に怒号を浴びせる様子がICレコーダに録音されていた事例、大阪地検特捜部による証拠品のフロッピーディスク改ざん事件、強盗殺人罪で死刑を求刑された男性被告に無罪判決が言い渡された裁判員裁判等々。

▼私事だが、拙宅の庭木の剪定に来てくれている植木屋さんは何カ月も先までスケジュールがびっしりだそうだ。言うまでもなく、その仕事の確かさからだ。聞けば、彼の勤務先の造園会社は弊紙の購読者だそうだ。もちろん義理でお願いしているのではない。近所の評判を耳にして、彼を指名したのがきっかけだ。

▼従業員数人の小さな町工場を頼って、国内外の名だたる大企業から注文が舞い込んでくる。「大会社は、新しい試みのために、事前に予算を組んだり、稟議を通したりするがウチの場合は『失敗したら社長のオレが責任を取る!』だから機動力が違う」と経営者は口を揃える。

▼「以前の検察は、地道にコツコツと証拠調べを繰り返していたのに、誇りを失った…」と嘆く検察OB氏。「日本の技術は世界一」、「職人の匠の技が日本を支えている」とよく言われる。職人は伝統を肯定するが、その反面、切磋琢磨を続け、現状を否定し続ける。「職人の誇り」は、日本の貴重な資源である。(茨城・KK)

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