コラム

2011/05/31

広がる憎しみの連鎖(茨城・KS)

広がる憎しみの連鎖

▼「罪を憎んで人を憎まず」。かつて孔子の孫である孔鮒(こうふ)が『孔叢子(こうそうし)』に記したとされる。犯罪は罰すべきだが、人が罪を犯す事情や理由を汲み、人格そのものは憎むべきではないという性善説に基づく思想である。

▼ニューヨークの同時多発テロから10年。犯行におよんだテロ組織、アルカイダのリーダーであるウサマ・ビンラディン容疑者が、アメリカの特殊部隊によって殺害された。110階の世界貿易センターに旅客機で突撃するという大惨劇。日本人24人を含む、世界中の方々が亡くなり、救出に向かった勇敢な英雄らの二次的犠牲も計り知れない。はたして今回の事件にも冒頭の言葉が言えるのだろうか。

▼同容疑者殺害の発表後の深夜、街頭に集結し、お祭りのように歓喜して舞うアメリカ国民。ドイツのメルケル首相は「殺されてよかった」と話した。筆者はこれを見て、いくら犯罪者といえども、人が殺されて祝福する姿には違和感を覚えた。

▼テロで犠牲となった杉山陽一さんの妻は、事件直後は同氏を憎んだ。しかし後に「テロリストの行為は正当化できないが、個人は憎めない」と感じるようになったという。「今後も犠牲者が出てしまうのかと考える。これで区切りとは思えないし、癒されるわけではない」とも。

▼憎しみの根は深く強く広がる。今回の作戦でアジトから押収された資料で、アメリカで大規模な鉄道テロが計画されていることも判明したし、現に報復テロも起きている。世の中は、自分以外の大勢の人間で成り立っているという当たり前のことを強く認識しない限り、憎悪の連鎖は止まらないのだろう。(茨城・KS)

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