コラム

2011/07/22

安全・安心なくらし(東京・JI)

安全・安心な暮らし

▼休日に横になってテレビを見ていると、1歳の娘が筆者の足に引っ掛かってすっ転び、そばにあったテーブルに顔から激突した。人は常に危険と隣り合わせであり、何気なく暮らしている家の中でも決して安全とは言えず、安心はできない。扉や柱に足の小指をぶつけて苦しんだ経験は誰でもあるだろう。

▼震災や原発問題などもあり、最近は「安全・安心のまちづくり」という言葉を多く聞く。復興基本法でも「安心して暮らすことのできる安全な地域づくり」とあり、被災自治体による復興方針でも同様の表現は多い。大きな被害を受けたのだから、当然ではある。

▼社会心理学を専門とする同志社大学の中谷内一也教授は、著書『安全。でも安心できない』(ちくま書房)の中で「安全さえ確保できれば人びとの安心も確保できると考える企業や行政は多い」と指摘する。こうした企業・行政は、たとえ被害を発生させなくても、不適切な管理によって不信感をもたれ、危機的な状況に追い込まれるという。

▼「安全性を向上させても市民の安心に結びつかない」「安全だけで安心が導かれるわけではない」と中谷内氏。安全性を高めるだけでなく、人びとの心に向き合い安心を高めるよう述べている。ただし「誰からも信頼を得られるような特効薬はない」とのこと。

▼ほっぺたに青あざをつくった娘は、相変わらず部屋を走り回っている。転ぶという不安はないようだ。痛みを忘れることも、安心に必要な材料なのかもしれない。ただ、あの震災は多くの人が忘れないだろう。不安解消に時間がかかっても、まずは安全を優先した復興が必要だ。(東京・JI)

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