コラム

2011/12/16

大人こそ絵本を(茨城・KK)

大人こそ絵本を

▼島崎藤村『夜明け前』を10年振りに読み返した。時代は幕末・明治維新の激動期。純粋で潔癖な性格の青山半蔵は新しい時代の到来に心躍らせる。しかし、現実は彼の理想とはあまりにかけ離れたもので、変革に適応できない半蔵は生計の道を失い、失意の中、ついには狂人となり、56年の生涯を終える。

▼40代では、いまひとつよくわからなかったが、50代になって再読し「人生とは、ままならないものだ」―いくらか受け容れられるようになった気がする。同じことが絵本にも言えるのではないだろうか。子どもの頃に読んだことがあり、懐かしさから、ふと手に取りページを繰ると、受け止め方が違うものである。

▼県立図書館のこどもとしょしつで『だいじょうぶ だいじょうぶ』(作・絵いとうひろし・講談社)を手に取った。「散歩の途中、困ったことや怖いことに出会うたび、おじいちゃんは僕の手を握り『だいじょうぶ。だいじょうぶ』と、おまじないのようにつぶやくのでした…。

▼一般の書籍に比べると、絵本は文章も短く、ページも多くはない。絵という視覚的なものに、シンプルな文章が適度に混ざり合っているため、普通の本に比べ、ピンポイントで作者のメッセージが伝わってくる。

▼老人ホームやホスピスなどで過ごす人たちが好む曲は「故郷」を歌ったものが多いという。絵本も、幼少期の感覚や情景を呼び起こし、ナイーブで穏やかな気持ちにさせてくれる心の故郷か。年齢を重ね、壁にぶつかった時、絵本が支えになってくれるのでは。「だいじょうぶ。だいじょうぶ」―おじいちゃんの声が聞こえてくるように。(茨城・KK)

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