コラム

2012/02/08

夏目漱石と自転車(群馬・MY)

夏目漱石と自転車

▼「自転車に御乗んなさい」。そう下宿先の女主人に勧められ、監督役の友人とともに渋々と乗馬場や人気の少ない坂道で練習するようすが描かれている。明治の文豪・夏目漱石の『自転車日記』だ。

▼英国留学中の実話であり、「いやしくも文明の教育を受けたる紳士」である漱石は、体裁を保とうとするもひっくり返り、立木に突き当たり、体中に傷が絶えない。皮肉たっぷりな文章だが、飽きもせず何度もチャレンジしたり友人と遠出したりと、自転車を楽しんでいるのがほほ笑ましい。

▼昨年10月警察庁が幅3m未満の歩道での自転車の通行を認めない方向を明らかにした。相次ぐ自転車と歩行者との事故軽減を図ることが目的だが、群馬県の交通管理者は困惑した。自動車保有率が全国有数のクルマ社会。交通量の多い道路で、安全な歩道から危険な車道へ自転車を移すのは、かえって事故の増加を招くのではと危惧した。

▼自転車と歩行者の事故は増加している東京など都会。メッセンジャーがオフィス街をさっそうと走り抜ける光景は珍しくなくなった。他方、地方の実情はと思い、担当する山間地域の郡部で自転車と歩行者を調べてみた。1日の移動距離80kmですれ違った歩行者は14人、自転車は5台。雪も多少あり寒さも加わって少なかったのか。しかし、群馬県は近くのコンビニへ行くにもクルマを使うのが当たり前、納得の数字かも知れない。

▼全国一律で打ち出す方針は地方分権を求める社会情勢と合致するのか。よろよろ運転で漱石がぶつかったのは木製の荷車。現在の車道にあふれるのは、重さ1tを超える鉄のかたまりである。(群馬・MY)

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