コラム

2012/05/19

進化か、退化か(新潟・CY)

進化か、退化か

▼その名に「知恵」とつくのは英語圏、「恋」とつくのは韓国。痛い思いをした方も多いだろう。「親知らず」と呼ばれる歯のことだ。英語では「wisdom tooth」、韓国語では「サランイ(恋の歯)」。学生の頃に留学生から教わった。表現の違いこそあれ、親の手を離れ分別がつく頃に生えるのは万国共通らしい。

▼現代人では全く生えないケースも増えているというが、そもそもどんな役割があったのだろう。原始時代の人々は、固い物を摂取していたため歯の磨耗が激しく、これを補うためだったとされている。現代人は、1回の食事あたりの咀嚼〈そしゃく〉回数でみると、卑弥呼の時代の約7分の1、戦前の2分の1ほどという。

▼昨今は歯の間から常に舌が出た状態だったり、しっかり口を閉じることが出来にくかったりする子どもが増えているらしい。柔らかい物ばかり食べていた弊害だ。ゆっくりよく噛むと、唾液の分泌を促し、虫歯や歯周病の予防につながり、肥満予防や脳の活性化にも効果的。

▼介護予防の分野でも噛むことは注目を集めている。日本人の死因で4番目に多い肺炎。とりわけ誤嚥〈ごえん〉性肺炎のリスクを減らすには適切な口腔ケアが必須だ。飲み込む機能の回復には、義歯を用いるなどして、少しずつでも固い物を噛むことが有効だという。

▼「親知らず・知らず」に向かっていくのは進化なのか、退化なのか。痛いのはもちろん御免だが、いずれにせよ、恋や知恵を冠した歯を失うのは少し寂しい。かたことの英語で親知らずを伝えたじれったさを懐かしく反すうし、たまにはゆっくりよく噛むことを実践してみたい。(新潟・CY)

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