コラム

2012/08/07

スピノサウルスの思い(長野・EM)

スピノサウルスの思い

▼5歳になる息子が化石を採りに行きたいという。読み聞かせの本から興味を持ったそうで、所望は最大の肉食恐竜「スピノサウルス」とのこと。中々の難題だが、その昔小学校へ通う道すがら葉っぱの化石を拾った記憶を頼りに、数10年ぶりに母校へ足を向けた。

▼それは山奥くにあり、団塊ジュニア世代の当時でも1学年20人足らず。現在は全学年あわせて24人しかおらず、同様のもう1校と統合されることが正式に決まっている。久しぶりの道中だが、木々は記憶よりも奔放で、初夏を謳歌する瑞々しさよりも、うっそうとした暗さを感じさせた。

▼目当ての場所は、山の斜面に沿った狭く急な歩道の土むき出しの法面。しかし、舗装されていたはずの路面は土にまみれ草葉が覆い、まるで獣道の有様だった。連れ立った母によれば、登下校は車で送迎しており、子ども達が酸葉を噛み、小枝を振り回し、この道を駆けることはない。

▼何物も人が去れば衰退し荒廃していく。全国に数多くある限界集落の問題であり、若者離れが進み、技術の伝承が危ぶまれる建設産業界の問題でもある。魅力を創り、伝え、人を呼ぶことの難しさに苦悩する昨今。それでも、その困難が、一度途絶えたものを復活させることほどではない―とスピノサウルスは知っている。

▼幸いにして、日々の野良仕事や山菜採りを通じ自然と向き合う術を知る母の活躍により、葉脈がくっきり写った化石を2つ見つけることができた。鎌を手に遮二無二斜面を登る様を、息子はどんな思いで眺めただろう。故郷を捨てた身にとって、こうした技を伝承することがせめてもの償いになるだろうか。(長野・EM)

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