コラム

2012/09/04

骨抜きにされた公共事業(茨城・HN)

骨抜きにされた公共事業

▼山梨県甲斐市竜王にある堤防、信玄堤は、武田信玄が築いた。御勅使川の流れを竜王の高岩にぶつけ、水勢を削ぐ方法で、釜無川を甲府盆地へ氾濫させずに下流へ誘導。現代の公共事業の先駆けとも言える知恵が史書に残されている。

▼茨城県土木部が作成している「なるほど公共事業」も、県がこれまで取り組んできた事業効果を分かりやすくまとめた記録集。道路や河川など119事業を掲載。あの大震災以降は、復旧で活躍した地元建設業者や、東海第二発電所が防護壁を設置するきっかけとなった津波浸水想定区域図の作成なども記されている。

▼このように人命を守るための公共事業は、まさに称賛に値する。しかしその一方で、浅はかな判断のもとで造られた公共施設が、問題化されていない。

▼京都大の藤井聡教授にインタビューした際、ある建設業者の話を教えてくれた。東北沿岸部のある町で予算を削って当初より低い堤防を整備した結果、小学生を含む人々が犠牲になった。教授は、「もしこれが事実なら賠償問題だ」と述べ、政府の予算削減により骨抜きにされた公共事業が人命を奪ったことを強調。これは、前述の「なるほど公共事業」とは、まるで真逆の事象だ。

▼先般、自民党が国会へ提出した「国土強靭化基本法案」。10年間で総額200兆円を集中投資すればデフレ脱却を図れるというもの。この考えのもとになったのが、藤井教授の『列島強靭化論』などの著書。先人から学び、脈々と受け継がれる公共事業。予算は厳しくなる一方だが、今はお金をかけるべき所にかける必要がある。国を守るため、早急な集中投資が求められる。(茨城・HN)

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