コラム

2012/11/23

家族の絆について(茨城・NI)

家族の絆について

▼芸術の秋である。久々にDVDを購入した。作品は井上靖の自伝的小説を映画化した「わが母の記」。この作品は、自分の母親について書いた短編3部作。80歳の母親の老いを綴った「花の下」、85歳の記憶が崩れていく母親を描いた「月の光」、母親の死の前後を記した「雪の面」が原作になっている。普遍的な家族の愛は海外でも感動を呼び、第35回モントリオール世界映画祭の審査員特別グランプリを受賞。とても母親が愛おしくなる作品。監督は原田眞人氏。

▼「わが母の記」の舞台は昭和30年代の高度成長期の日本。団塊の世代が生まれ育った時代だ。あれから半世紀が経過しているものの、奇しくも現代の日本を象徴する作品ではないだろうか。

▼主人公の母、八重は年老いて同じことを繰り返し聞くようになっていく。家族は、記憶が途切れ老いていく母を敬意と愛をもって支える。家族なら当たり前のはずなのに、涙を誘い、感動してしまうのはなぜだろう。

▼誰もがいつか迎える老い。自分が年老いた時に、家族や恋人、友人を覚えていることができるのかと思うと、とても儚い気持ちになる。ストーリーの終盤、母の老いは進み、主人公を目の前に「息子じゃない」者の前だから話せる母の真実の言葉を語る。そのときの双方の表情が印象的。

▼これまで自分の母を好きか嫌いかなど、当たり前なことで考えたこともない。しかし、居なくていいなんて決して思ったことはない。この作品を観て、恥ずかしいことだが、一言だが「ありがとう」と母に言おうと思っている。ことしの秋は、そんなことを考えさせる気持ちよい風が吹いている。(茨城・NI)

厳選されたコンパクトな記事で
ちょっとリッチな情報収集

建設メールはこちら