コラム

2013/07/11

島の絆・一膳の白米(埼玉・菊池

島の絆・一膳の白米


▼大学生時分に研究地として初めて訪れた、鹿児島県にある奄美群島の加計呂麻島<かけろまじま>に

先日赴いた。4度目の訪島ともなると、顔見知りの島民は少なくない。毎回、何かと世話をしていた

だき数え切れない好意をいただいたが、これまで特に忘れられないのは、一膳の白米をご馳走になっ

た貴重な体験だ。


▼島内にはコンビニやスーパーが無く、食事処も少ない。西阿室という村も例外ではなかった。昼時、

食事にありつけず歩き回っていると、一軒の商店を見つけた。店内は15畳ほど。「一通りの品が揃っ

ているなぁ」などと感心していると、奥からおばあさんが現われた。


▼パンと飲み物を手に取りながら、島内で商店を営むことについて聞いた。「島の人が買いに来てく

れるからやっていける。島の絆に助けられている」。筆者も同じように、島の絆に助けられて研究が

できているのだと気付いた。1年後、再びその商店を訪れた。「覚えていますか」と聞くと、おばあ

さんは首を横に振った。「あなたのように会いに来てくれる人が何人かいたけど、覚えていないの」。

彼女は、訪れる多くの人の記憶に残っているのだ。


▼最近の訪島でも、店のようすは変わっておらず、おばあさんも元気そうだった。「これで3度目な

んです」。反応は前と同じだった。違ったのは「上がっていきなさい」という一言。おばあさんは、

購入したカップ麺にお湯を入れ、一膳の白米をご馳走してくれた。帰り際に「また来ます」と言い残

した。


▼たかが一膳、されど一膳。これまでに3度訪れることが無ければ頂くことができなかったであろう、

島の絆を象徴する一膳だった。(埼玉・HK)


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