2013/12/04
思い出を引き継ぐ家(群馬・AN)
思い出を引き継ぐ家
▼毎朝の日課である神棚への神饌(しんせん)に3歳の娘も参加するようになった。神饌後の『二礼
二拍手一礼』の拝礼も親のまねをしながら行う。自宅は亡き父が建て、リフォームを経て今では母、
妻、娘とともに4人で暮らしている。父が建てた時は祖父母もいたため、娘も含めた親子4代がお世
話になっている
▼ことしも『ぐんまの家』設計・建設コンクールの受賞作品が発表された。コンクールは良質で住み
良い住宅を表彰することで、県民への住宅に対する関心を高め、ゆとりある豊かな住生活の推進を図
ることを目的としている
▼受賞作品を手がけた設計・施工者、さらには施主への表彰式を毎年取材している。ことしの最優秀
賞は和風の雰囲気を持った現代建築様式の素晴らしい作品で、コンクールの審査委員長は「自然素材
をそのまま生かし、日本家屋の良さと落ち着きのある質の高い空間」と講評した
▼そんな中、築80数年経過した移築で優良賞に輝いた作品に目が止まった。区画整理による移転で新
築か移築を悩んだ末、養蚕農家の佇まいを残したいとの強い希望から移築を決めた施主の思いに共感
し、その思いを実現させた設計者と施工者の熱意に驚嘆したからだ
▼新築か移築かで迷っていた施主が移築を決めたのは「この家を残してほしい」という子どもの一言
だったという。設計のコンセプトに『家を引き継いでいく人の思いを後世に残していくこともわれわ
れの責務』とあった。娘と『二礼二拍手一礼』する神棚は父が就寝していた部屋にある。父が建てた
家の神棚を前に手を合わせる娘の姿もまた、この家が大切な思い出として引き継がれる。
(群馬・AN)