2013/12/06
科学的日本魂を持って(群馬・MY)
科学的日本魂を持って
▼寺田寅彦の随筆『地図を眺めて』には、国土地理院の前身である陸地測量部の正確な仕事ぶりが描
かれている。この部署は、陸軍参謀本部に置かれ地形図製作に従事して日本の近代化を支えた
▼北海道でテント生活を送り作業にあたる測量技師と人夫を悩ませたのが、通称「山のおじさん」、
ヒグマであった。食料貯蔵所を襲われ数日間の絶食を余儀なくされたケースが語られているほか、自
然災害も多かったらしいが、命を落とした測量部員がほとんどいなかったのは、周到な準備と注意を
怠らない仕事に対する精神だった、と寺田は推測する
▼一方、現在の群馬県はツキノワグマに頭を悩ます。山にえさの少ない夏期、糖分を多く含むスギや
ヒノキの樹皮に頑丈な歯と爪で傷をつけ、太く育った木を枯らしてしまう。そのクマが人里へ下りて
くるとさらに厄介だ。人的被害を及ぼすことも希ではないのだ
▼ただ、治山や砂防といった山奥での仕事は、前人未踏の地での作業を余儀なくされる。そこは自然
の領域であり、他の危険な野生動物と出会う確率も高い。こうした厳しい自然の中で真摯に従事した
当時の測量部の人たちが信用できる地形図を仕上げたのは「一本の線にも偽りを描かないとする、忠
実に仕上げる頼もしい科学的日本魂(やまとだましい)のおかげ」と寺田は絶賛している
▼昨今、我々が仕事に携わる社会的、自然的環境は往時と比べ、余りにも恵まれ過ぎてはいないだろ
うか。誇りを持てる仕事をしているだろうか。求められる精神は、寺田のいう、どんな環境下でも忠
実に仕上げる「科学的日本魂」ではなかろうか。こうした精神論がいま欠如していまいか。
(群馬・MY)